8.ダイヤモンド


「やっぱさぁ、給料の3か月分ってのが基本だよな」


 2年の教室で青空を見上げながら、アホがアホなことを言いだす。
『給料の3か月分』が何を指すのか、それは高校生ながら一応理解できるが言いだした相手がどういう気持で言いだしたのかまではわからない。


「しかも大きいダイヤモンドの一粒石とか」


 決定打だった。  御幸が言いだしたのは『婚約指輪』の相場だろう。
 自分に話しかけているように見えて、多分別に返事など期待していないのも分かっていた。
 ニヤニヤしながら脳裏にはきっと"アイツ"が浮かんでるに違いない。


「だってあいつ宝石ほとんど知らないんだぜ〜」


 確かに常識知らずな上、宝石なんて女性が好むものを知っているとは思えず。


「そらそうだろうよ」
「…」
「何だよ」
「いや、まさか返事がかえってくるとは」


 確かに。
 本人もつい声に出してからしまった、と思ったくらいだ。
 ニーッと深くなった御幸の笑みに、先ほどまで黙っていた倉持はうんざりするしかない。


「会見って言えばホテルに金屏風だろ?」
「さぁ」
「こう2人で並んで指輪見せて」
「へぇ〜」
「そこで一斉にフラッシュだよ」
「…はぁ〜」


 もちろん返事なんて聞いちゃいない御幸は、もう倉持など見ていないまま未来の婚約記者会見を語る。
 その電波な行動に正直倉持はどうしてこうなったのか、と以前の御幸を知る分疑問に思う。


「おっ」


 窓の外を見れば体操服姿の少年たちが通る。
 ふと見上げた一人がこちらを指しながら隣の少年に声をかけた。
 上を見上げた少年が自分を見つけた瞬間、輝くような笑みを浮かべ手を振る。


「指輪なんかよりよっぽど輝いてるだろうに」


 隣ではまだまだ電波な友達は話していた。
 手を掲げ返してやれば、嬉しそうに相手は大きく両手を振り返す。
 一緒にいる友達に促され去ろうとする途中も振り返っては手を降る。


「ん?何かあるのか」


 ようやく倉持の動きに気づき下を見た御幸の視線の端で、何かが光を反射したようなきらめがあった。
 それは理由は分からないが倉持も感じて・・・


『何だかダイヤの輝きみてえだな』


 そう思った瞬間、自分の思考の恥ずかしさに『何、御幸みたいなことを!』と反省してしまう倉持なのだった。